どんな仕事でもそうなのでしょうが、仕事ってホントどこでどうなるのか、色んな事が起きるものです・・・。そして、どんどん色々な事が変化していきます。その変化の波を先取りするのか、うまく波長を合わせて乗っていくのか、また、波の後を追いかけていくのか・・・まるでサーフィンをしているかのようでもあります。サーフィンと云えば夏もすぐそこまで来ているような気配でもあります。春先から夏にかけては、また香水なども比較的動く時期と云えるでしょう。そんな中、先日はまた北京へ行ってきました。前回のコラムの中で中国の香水市場背景のような事をちょっと書いたのですが、「男性はほとんど使ってない・・」というコメントを撤回します。今回は実際に香水の販売に携わる人達と直に接する機会がありましたので、色々と生の声を聞いたのですが、ここにも変化する一つの“波”がありました。
 中国でもここ1〜2年の間に男性ユーザーの数が相当増えていて、購買客の3割程を占めるようになって来たとの事です。確かに云われてみれば中国人特有の「とッツキの速さ」が急激に男性ユーザーを増やしているようです。理由も率直で「異性に好印象を持ってもらいたい・・」という明快なものです。使い方はと云うと肌に直接つけるよりは、着ている洋服につけるのだそうです。そうすると長期間?・・持続するからだそうです。
「長期間?て、どの位・・」と聞くと1週間位と云う・・。なるほど、「オードトワレの持続時間は平均3〜4時間位が一般的でしょう・・」という話しに、それしかもたないのォ〜というようなけげんそうな表情の理由が分かりました。
中国では、香水というよりは、芳香剤的感覚で使われているのがビギナーに共通する感覚のようです。
 そんなこんなで帰ってきたら、今度はUAEはドヴァイからパフューマリー(香水商人)が訪ねて来るとの事でメールが入っておりました。UAEと云えばサッカーでは日本のライバルの一つであり、中近東あたりには香水ブローカーが暗躍?していると聞いていたのでちょっと緊張しておりましたが、これが筋金入りのベジタリアンで中々人懐こい“好中年”でありました。名前はMr.ラジェッシュ。ラジェッシュとは“ラディッシュ”のように名前からしてベジタリアンそのものだが、アラビア語なまりの英語を風体に似合わずキュートに使う中々のジェントルマンだ・・。聞くところによると、ドヴァイに宝石店と香水専門店を持っていて、香水店は20年位前からやっているとの事。年に数回程、世界各国を回っていて、客は主にヨーロッパからの人が多く、ローカル(地元)の客は3割くらいだそうだ。
 彼が持参した何枚かのお店での写真を見せてもらったが、その中に一人小太りの中年白人がいた。ガタイのいい地元の人と写っていたのだが・・。少し気になったので「この人もスタッフか?・・」と聞くと首を横に振り、「ちがう!これは“エルトン・ジョン”とそのボディーガードだ」と云う・・。何ィー!、あの「グッバイ・イエロー・ブリックロード」をを唄ってた“エルトン・ジョン”がァー、店にィー!へェー!・・と、こちらがビックリしながら、何故日本に来たのか?・・と聞くと、「ユニークで面白い商品、他に無い商品を探しに来た」と云う。では、「うちの商品はどこで知ったのか・・?」と訊ねると「奈良?」で知ったと云うのだが、確かに奈良県には取引先があることはある。まあ、細かい詮索はよしとして、これでもし、今後の話しが進みウチの商品がドヴァイとやらに行くという事になれば、仕事とはホントどこでどうなるのか分からないものである。
ここでMr.ラジェッシュ、COOLに決めてくれます・・「香りに国境はないのです・・。」
 しかし、ベジタリアンと一緒にいるというのは結構大変である。まずもって食事の選択にイチイチお願いをする事だけでも“彼”と店側の双方に結構気を使う。又、彼はいわゆるイスラム教徒ではなくヒンズー教徒であるという事で、酒は多少たしなむのだそうだが、飲むのは赤ワインのみだ。
 聞くところによるとイスラム教徒の間では、酒はご法度だが隠れて飲んでる人もいるそうで、なんと香水もその対象であるというのだ。確かに香水の類にはアルコール(エタノール)などが使われているので、まったく根拠の無い話しではなく、筆者も一度試みた事があって、それはそれはエライ目に遭った事がある・・。
(※題名は忘れたが、確かオードーリー・ヘップバーンがヒロインの映画の中にも、香水を口に向かって吹くシーンが出て来るのを真似たのが、そもそもの動機だった、それにしても舌がチリチリ、ヒリヒリだった・・・)
それ依頼、香水を酒がわりに飲むなんてまさかウソだろうと半信半疑のままであったのだが・・・。
現に、“本国の方”が云うのであるから信じないわけにはいかないだろう。向こうの人達はまさに命がけで“酔う”のである。さぞや、かぐわしい“息”をしていることだろう・・。
 それにしても酒と香り(香水)には似たような側面や背景が結構あるものだ。酒造産業は昔から莫大な利益を生んで来たし、香料もまたかつては宝石と同等の扱いをされたものである。現代の香料はその殆どが合成香料主体だが、優れた香りの開発に成功すれば世界中に流通させる事も可能なのである。特に、フレーバー系香料の開発は莫大な利益をもたらすとされている。フレーバー系香料とは主に食品系香料である。
 みなさんも一日のうち必ず何がしかの飲料(又は食品)品を口にするのは当然でしょうが、その品々のおよそ半分以上に食品香料が使用されているのはお気づきでしょうか?特にお菓子や飲料水等に多いのですが、これは商品の“風味”(テイスト)を良くする為に人工的に香り付けされたものです。商品の裏側やラベルなどに「香料」と記載されているのがそれに当たります。ちなみに日本の某香料メーカーは世界で5本の指に入るメーカーですが、その大半はフレーバー系香料の売上によるものです。このフレーバーの中には「うなぎの蒲焼」や「焼きたてのパン」のニオイなどもあるとの事・・。しかし、その一方で肩身の狭い思いをさせられているのが、我々が手がけている香粧品系香料です。
 香粧品系香料とは主に化粧品や香水などに使用される香料の事ですが、ご存知の通り現在市場に出ている化粧品の殆どが“無香料”をひとつのキーワードとして定着しています。シャンプーやソープ、染毛剤などはその場で洗い流してしまうのと使用感の向上の為に、従来から香料が配合されていますが、それでもその売上分母はフレーバー系香料にかないません。
 このような客観的事実を観察すると香商品香料の将来が危惧されてくるようですが、それはそうでもありません。なぜなら、化粧をすることと香水を使うということとは本質的に分離されるからです。化粧は、もはや女性にとっては無くてはならないものであり“必需品”です。片や香水は必需品ではなく“嗜好品”です。嗜好品とは好きか嫌いかで決まるもので、興味の無い人にとってはその存在すらありません。しかし、好きな人にとっては、自分の一部、あるいは分身のようにのめり込むものです。この特性こそが嗜好品の生命でもあるわけです。
 のめり込んでいる多くの人達は、もしかしたらMr.ラジェッシュと同じ事を知っているのかもしれません・・・。

Mr.ラジェッシュ曰く・・・、
香りとはまさにボーダーレスなものである。
そして、香りは口(言葉)ほどにものを云う・・・
香りでゆさぶり、香りにゆさぶられる快感を知ってしまったら、
もしかしたらそれは、ひとつの“媚薬”かもしれないよ・・。

彼との出会も媒体は香りだった・・・
そして、
我々は「香語」で話した・・