しかし、時の経つのは早いものだ。ついこの前お正月だと思ったらもう2月が終わろうとしている・・・。そんな中、今年は年明けから、あのMr.ラジェッシュがまた来日するとの連絡が入った。前回の来日の際はMADE IN JAPANの色々な商品を買い付けに来たのだが、今回もジュエリーを中心に買い付けにやって来ると云うのだ。残念ながら前回は諸条件が折り合わず見送りになってしまったのだが、今回も執拗に香水を調達したいとのことのようだ。さて、今回はどの様な話になるのか、来日はもうすぐだ・・・と、その前に中国へまた出張しなければならない。今回の中国は、前回同様、北京から上海、上海から杭州へと周る4泊5日のスケジュールだ。目的は二つ、一つは弊社商品の中国での展開に関する修正と今後の政策に関する打合せ、もう一つは、中国での資材調達先の確保と交渉である。これで、中国は通算6回目になるのだが、未だに現地の地理感覚が備わらない。やはり広大なせいなのだろうか?イヤ、何となく似たような景色しか目に飛び込んで来てないからかも知れない。それはそうだろう、仕事で行ってるのだし、ほぼ同じ行程で動いてるのだ。今回はなるべく単独で行動する時間をつくり、あえて普通の中国の生活者の中になるべく入ることにした。

 いざ、中国へ・・・通訳無しの単独である・・と云いたいが、とりあえず通訳とは現地で待ち合わせということになった・・・。翌日さっそく打合せが始まったが、状況はさらに変化していた。弊社商品は日本からの輸入なので、関税やら何やらで、どうしても価格が高くなってしまうのである。まず、修正すべきはこの価格帯の問題である。これは、もう現地生産に切り替える以外、有力な方法は無いだろうということで合意となった。

 中国での人気は、やはり欧州系商品である。特に車などは殆どのメーカーが進出している。上海でのタクシー車などは「フォルクスワーゲン社」の「サンタナ」というドイツ車である。ドイツ車というと日本でも、人気は高いが、香水などは意外と地味な存在かと思われるのだが、この辺が気質と環境の違いなのかも知れない。弊社の現地代理店もドイツブランドの香水を今年から手がけるのだという。イメージキャラクターはナンと、サーッカーのドイツ代表GKである、あの「カーン」様である。ウーム、やることが早くて大胆だわな・・・。中国でもサッカー人気は高く、TVの中継はよくやっている。

 実はその代理店は昨年までは韓国の香水を手がけていたのだ。名前は「エスポワール」。これは韓国ナンバーワンの化粧品メーカーが親会社のフレグランスでもある。昨今の韓流ブームもあって、現地へ行った方は目にしたことがあるのではと思うが、不思議と日本ではあまり見かけない。女性用の香りは決して悪くはないと思うが、メンズの香りが日本では難しいかも知れない。弊社も一度アプローチをしたことがあるが、日本の市場にはあまり関心が無さそうで現在は棚上げになっている状況である。何年か前には日本に現地法人があったそうだが、鳴かず飛ばずで撤退してしまったらしい・・。現在の韓流ブームを見たら当時の担当者は何とするだろう。ビジネスはまさに「時流」である。「時流」は流行よりももっと強大な流れなのである・・。

 さて、話を中国へ戻そう。そう、中国でも今後さらに各国の色々なメーカーのフレグランスが登場してくると思うが、ここ3〜4年の間、つまり北京オリンピック迄が一つのヤマ場と思われる。その間にどれだけのブランド普及が出来るかが、その後の展開を大きく左右することは容易に推察できる。とにかく人が多い、そしてその人々が様々な階層に分布している、日本人のイデオロギーをそのまま持ち込んでビジネスをしようとしても殆ど通用しないのではないかと思う。特に上海はすさまじい。見上げれば近代的高層ビル群が並び、夜ともなれば鮮やかなイルミネーションに飾られる。しかし、ちょっと路地を歩くと、歩道に植えられた街路樹と街路樹の間に一本のヒモが張られている。そしてそのヒモには、やたらとでかいパンツやらパジャマなど、変わったところでは魚の干物のようなものが混然と吊るされ(干され)ている。中国ナンバーワンの商業都市、上海にしてこれである。しかし、これが現在の中国のひとつの顔でもあるのだ。

 では、今回記憶に残る中国でのエピソードを一つお伝えしよう。上海からタクシーで3時間余り、今回の杭州での打合せはまさに恐るべし中国、刺激的!?中国であった。タクシーの運転手は前日にアタリをつけておいたので杭州までは非常にスムーズだった。が、さて杭州に着いてからが分からない・・運転手のテリトリーは上海なのである。そんな都会からのビジネスマンが多いのだろう、高速を降りて行く側道に、何やら甲高い声を上げながら「帯道」?と書いたダンボール様の紙片をかざしてアピールする人達がいるのだ。何となくピンと来たと思うが、いわゆる道案内を職業とする人達である。我々の運転手も当然この辺りの地理は殆ど不明である。行き先を告げ、さっそく値段の交渉が始まった。案内人「60元でどうか?」・・運転手「高い!それなら自分で行く!」・・・「じゃ50元でどうだ!」・・「高い!」・・・運転手はそっけなく走り出してしまった。後ろから大きな声で「40元でいいよ!!」それでも運転手は止まらない。しばらく運転手は走ったのだが、一向に分かる様子がない。ここで、時間をロスしては打合せに遅れてしまう。我々は運転手に言った。「40元は我々が払うから“帯道”を使おう!」運転手はうなずいてUターンした。さっきの“帯道”は同じ場所で“仕事”をしていた。「40元で雇う、乗ってくれ!」???何と“帯道”さん?を車に乗せたのである。“帯道”とは“ナビゲーター”のことであった。これはまさしく“ジン(人)ナビ”である。しばらく世間話をしながら走ったのだが、走ってみて分かった。未だ未整備の道がやたらと多い。昨日出来たばかりのような道路など、部外者が来ても分かるはずもない。当然、舗装などはされていない。我々の“味方”となったその“ジンナビ”さんは、この辺りをバイクで色々な農産物の配達をしていたという。40元は高くないか?と言うと「イヤ、我々も帰りはタクシーとかバスを使うから、決して高くはないんだ・・」と云う。どんなビジネスにも元手がかかるということなのだ。大体、一日平均3〜4回ほどジンナビするらしい。本業はもっと奥地での農家だそうで、ジンナビは農閑期のアルバイトのようなものと云う。そんなこんなで、ジンナビのおかげで無事目的地へたどり着いてしまった・・さすがである、しきりに感心してしまう・・・。

 ところが、今度は訪ねた会社でハプニングが起こった。何と停電である。大体、週に2回は停電があるという。気温が摂氏3度有るか無いかのところである。彼らは平然と打合せに入る。それも、部屋は停電で暗いので玄関を開け放したままである。仕方なくコートを着たまま打合せが始まった。
そう言えば出迎えの時にも彼らは厚手のコートや襟巻きをしたままだった。何となく違和感があったが、理由はこの停電だったのだ。女性が一人いたがほっぺたは真っ赤である。吐く息は白いまま打合せを2時間ほど、着いたのが10時半頃だったので、丁度昼食の時間となり「食事」へということになった。助かった!これで少しは暖かくなるだろうと思い食事へ・・・。地元の素材を使った料理を出す、ごく普通の中華料理店だが、エアコンをまず探した。あった!・・・よかった!。少しづつ暖まってきた。

 聞くところによると、この辺りの工場などには普通、空調設備などは無いのが一般的だという。エアコンなどはここ3〜4年の間に普及して来たとの事だ。それまでは、石油ストーブなどの暖房器具さえも使わないのが当たり前の生活だったという。これは、もうこの場で残りの仕事の打合せをしてしまうのが得策と考え、食事しながら粗方の話をまとめてしまった。皮肉なことに我々が食事を終え会社に戻ったら電気が点いたのである。でも、エアコンは無い。そしたら奥の方から扇風機型のヒーターを出してきてくれたのである。体は先ほどの食事で少し暖まって楽になっていたが、何よりもありがたかった。

 しかし、何より一番驚いたのは、このような環境にある香料会社へもフランスの香料会社などは、すでにアプローチしており、今後は合弁の予定もあるとのこと。今後の成長に絶対的確信があるのだろう。まさに、恐るべし中国の勢いである。ちなみに今回訪問した工場オーナーと社長は、共に小林コーセー社の現地法人で働いていたという。停電などに惑わされていてはいけない。たくましいビジョンを持ったこのような人達が中国にはゴマンといるのだ。そして、ここにも、ひとつの「時流」が渦巻きだしている。
果たしてこの「時流」にうまく乗れるかどうか、疲労と淡い期待と不安の中、帰国の途についた。

 今度は、あのMr.ラジェッシュがやって来る・・。
 この続きは次回にしたいと思うが、「香りとはボーダーレスなものである」ということを再認識できた出張でもあった。そして、「時流」のひとつを「香流」へとつなげてみたいとの思いがさらに湧き上がってきた・・・。